妄想渋滞@シュトコウソク
首都高速に乗るといつもイライラしながらこう思う。
外国人のあるジャーナリストがこの首都高速に乗ったとして、ひょっとしたらこんなことを書き立てているのではないかと。
「ニホンジン、特にトウキョウ近辺に住むニホンジンは遅々として進まぬ車の行列の中で1時間も2時間も待たされることに進んで金を払っている。
どういうことかというと、シュトコウソクという有料のエクスプレス・ウェイに乗ってどこかに出かけようとすると、必ずと言っていいほどトラフィックがジャムするのである。
何かビッグなイベントがあるというわけでもフェスティバルがあるというわけでもなく、恒常的に、慢性的にシュトコウソクのトラフィックはジャムを起こしている。
驚くべきことに、ニホンではどこのエクスプレス・ウェイを走るにも金を払わなければならない。
まずそこでジャムする。
チケットを受け取ったり、金を払ったりするのに一台一台の車が止まって待たなければならないのでジャムするのも当然だ。
チケットや金のやり取りは全て"リョウキンジョ"と呼ばれるゲートで行われる。
ほら、ニホンのヒストリーについて書いた本を読んでいると時々出てくるだろう?でっかいゲートが。
おっと、"カミナリモン"ゲートのことじゃないぜ、あれは"アサクサ"っていうトウキョウのダウンタウンのテンプルにあるやつだ。
そうじゃなくて、"セキショ"っていう名前のゲートだよ。"ウキヨエ"なんかにも描かれていたんじゃないかな?
ニホンの"リョウキンジョ"というのは丁度あれみたいな感じなんだ。
まだニホンのキャピタルがエドと呼ばれていた時代、まだニホンジンがチョンマゲを結ってカタナをさしていたエキゾチックでファンタジックな時代だ、そのセキショというゲートは"イリデッポウデオンナ"と言って、ある特定のヒトやモノの行き来を監視するためのキノウを持っていた。
現代ニホンのエクスプレス・ウェイの所々に配されているリョウキンジョと呼ばれるこのゲートがまるでそんなイメージで、ニホンジンは古来からある"セキショ"ゲートの制度を余程いたく気に入っているのか、未だにそんな監視を続けているんじゃないかと思わされるんだよ。
ほら、ニホンジンは今になってもガイジンのことを嫌って避けたがる傾向があるだろ?だからオレたちガイジンがいつどこを通ってどこに向かっているかという行動の逐一をいちいちチェケラして首相官邸かなんかに伝えているんじゃないか、ってね。
なぜってちょっとエクスプレス・ウェイを走るとリョウキンジョゲートがすぐオレたちドライバーの前に立ちはだかるからだ。これはきっとオレたちをウォッチしてるぜ、ってな。
事実、ニホンのリョウキンジョには"Nシステム"っていう監視システムが本当にあって、それは犯罪者追跡用という名目で設けられている赤外線カメラなんだが、何でも犯罪者じゃない市民の車の中もばっちり撮られているっていうじゃないか。
オレの考えも近からずも遠からずってところだろ。
そんな話はどうでもいい、話を本題のシュトコウソクについて戻そう。
このエクスプレス・ウェイ、2車線しかないんだ。
まぁ、ニホンみたいな土地の狭い国では2車線しかないエクスプレス・ウェイなんて別に珍しくもないけど、驚くことにこいつが全く不可解なところで一車線になるんだよ。
ニホンのドウロの一般的な特徴として、標識がさっぱり読みづらくて、ドライバーに全く不親切だということが挙げられるんだが、シュトコウソクでも唐突に、『この先1車線になります』、みたいな標識が出てきて、みんな慌ててウインカーをぱちぱち出して車線変更の機会を伺うんだ。
で、車が割り込んで来る分、後ろを走っている車はスピードを落とさなければいけないし、金魚が糞詰まらせたみたいに車が一車線に詰まるから、こういうこともトラフィック・ジャムを作っている原因になるんだ。
それより何より吹き出してしまいそうになるのは、スピード制限なんだ。
オレはニホンに来て初めてシュトコウソクに乗ったとき驚いたね。
赤と青の色のついている丸い標識に"60"って書いてあるんだ。
"60"!?オレは自分の目を疑ったね。
まさかそれがエクスプレス・ウェイの法定速度だなんて夢にも思わなかったよ。
ニホンは高齢化社会だっていうから、「60歳のおじいちゃんおばあちゃんがたくさん走っているから
気をつけて走れ」っていう意味だと最初考えたくらいだ。
相変わらずジャパニーズはジョークが下手だなぁ、のんきにそんな風に思っていたよ。
でも、違うんだ。それが本当に法定速度なんだよ。
エクスプレス・ウェイだぜ!?しかも金払って乗ってるんだぜ!?
何かの冗談だろ?それも決して安くないんだ。6ドル前後する。
ニホンで6ドルあればマックでバーガーにポテトとドリンクつけて
パンケーキなんかも食べれるんじゃないかな?ニホンの物価はだいたい高いけど、マックはやけに安いんだよ。
それはニホンが超負債大国だから、きっとマックを安くして貧乏なガイコクジンから外貨をしこたま稼ごうっていう魂胆かもしれないが、そんなつまらない邪推はどうでもいい。
60Km制限のエクスプレス・ウェイに金払って乗るだなんてとんだばかばかしい話だよ。
だって、オレの故郷だったら、その辺走ってる道路で少なくとも80Kmは出せるんだぜ!?
無制限のドウロだってある。当然無料だ。
オレはきっとニホンジンはキンベンでシンチョウなミンゾクだから、エクスプレス・ウェイでも飛ばさないんじゃないか、って思ってそのマジメさに打ちのめされたね。
でも、それは一瞬のできことで、すぐにそうではないということに気づくんだ。
シュトコウソクの道路は異様に曲がりくねっているということが走っていてすぐわかるからだ。
突然とんでもない急カーブが次々と現れるんだ。確かに60Km以上出して走るのは危険だって身をもって実感するんだよ。
2車線しかない狭い道路で急にキツイカーブだぜ。
このエクスプレス・ウェイは最初からスピードなんて出せない仕組みになっているということに気づくんだ。
結局のところ、このエクスプレス・ウェイはトラフィック・ジャムを起こすような要素がありとあらゆるところに満載されていて、最初から飛ばせない構造をしている上に、トラフィックが詰まる構造にもなっている。
1時間半あれば辿り着く道のりにその倍以上かかるっていうことも珍しくはない。
これのどこがエクスプレス・ウェイなんだろう?
それでもニホンジンはわざわざ金を払ってこのエクスプレス・ウェイに乗る。
ニホンジンは単に信号機のついていない道路がエクスプレス・ウェイだと勘違いしているのではないのか?
オレは不思議に思って、ジャパニーズのフレンズに会う度に聞いてみたよ、
『"シュトコウソク"は"コウソク"だろ?けどちっとも飛ばせやしない。むしろ、ジュウタイだ。ニホンジンはどうしてあんなのに金払って乗るんだ?』ってね。
そしたらどいつもこいつも返って来る答えは一緒で、わけがわからない。
『あれは"高速"じゃなくて"首都高速"だから。』
『What!?"シュトコウソク"だって"コウソク"の一種だろ?ガイドブックにもマップにも"Express Way"って書いてあるぜ?"シュトコウソク"と"コウソク"は何がどう違うっていうんだ!?』
『だから、"高速"は"高速"でも"首都高速"だからでしょ、って言ってるじゃん!何このガイジンちょーイミわかんない。』
ニホンジンはみんな温和で穏やかなピープルだという話を聞いていたが、シュトコウソクの話になるとそんなことはなかった。
誰もが最初からシュトコウソクを何かこう諦めている感じがするし、ひょっとしたら、今のニホンではコーダンコーダンと言って批判するニュースが相次いでいるから、このことについては話してはいけないタブーなのかと思って、オレは自分でいろいろと調べてみたんだ。
そしたら、シュトコウソクにはこんないきさつがあった。
シュトコウソクができたのはトウキョウオリンピックの時だった。
その建設費用を賄う為に、ニホンのガバメントはワールドバンクにお金を借りに行った。
ワールドバンクはニホンのガバメントが提示したシュトコウソクの図面を見て、金の貸し出しを拒否してこう言ったというんだ。
『こんな道路じゃ車が増えてすぐ使えなくなる』。
それに対して、ニホンのガバメントはこう答えたという。
『いえいえ、日本国民は輸送用でしか車を使わないから大丈夫です』。
一方で、ニホンのガバメントはニホンコクミンに対してこんな約束もした。
『こんな小規模なものになってしまったから、かならずや5年後には無料にします。』
シュトコウソクの建設からそろそろ半世紀、約束の5年に10を掛けた年月が過ぎ去ろうとしている今でも尚シュトコウソクは無料になっていない。
ニホンという国は全くもってわけがわからない。
とりあえず、オレは故郷のフレンズにはニホンという国に行ったら気をつけるべきことを3つ忠告している。
一つ、まともなホテルではオレンジジュースをオーダーしてはいけない。
何の変哲もない単なるオレンジジュースが大げさなグラスに入ってきて、10ドル以上の法外な料金を取られる。
ニホンには誰がこんなにたくさん買うんだろうという程不自然なくらいにベンディング・マシーンがストリートのあちらこちらにおいてあって、
オレンジジュースだったらそこで安く売っている。
二つ、早朝や夜の特定の時間帯のトレインは要注意だ。
ラッシュと言って、電車の狭い箱の中でものすごい数のビジネスメンに押し詰められてエライ目に遭うことになる。
最後に、ニホンのシュトコウソクというエクスプレス・ウェイはホテルのオレンジジュースとラッシュのトレインを足して2で割った
ようなクレイジーなところだ。
エクスプレス・ウェイなんて言っておきながら、車でギュウギュウ詰めになって、さらに高額な料金を取るイカサマなエクスプレス・ウェイだから、迂闊な車での移動はいけない、とね。
まぁともかく、オレが思うに、ニホンジンっていうのは器用でデンカセイヒンを造るのは上手かもしれないけど、ドウロを造るのは全くヘタクソで、それはニホンジンがちまちましたちっちゃいものを造ることには長けているかもしれないが、ドウロみたいな大きなモノを造るのには向いていないということなのかもしれないな。」
みたいなことを延々と頭の中で妄想していても、乗ると必ず出くわす首都高速の交通渋滞は、ちっとも前に進まない。
シュトコウソク、クレイジーなエクスプレス・ウェイだぜ!