任天堂とソニーから学ぶビジネス講座①―ソニーを殺す手はずを着々と整える任天堂のビジネス


※17日にUPしたエントリですが、2編続けて長文だったので16日にもって来ました。


12月12日のエントリを書き直してみた。
急いで書き殴りしたので何が何だかようわからんかったので。


また、これはここ以外の某所で晒す目的で書いたものでもあり、そこではあまりゲームに詳しくない人がたくさんいるのでゲーマーには言うまでもないことをたらたらと書いてたりします。


シリーズものの第一話として書いたので興味があればどうぞ。


つい先日12月12日、突然「ドラゴンクエスト9」が「nintendo DS」で リリースされることが発表されました。


ドラクエ」といえば、国民的超人気ゲームソフト。
毎回本流のナンバリングタイトルの新作が発売される日にはいち早くプレイしたいユーザーが長蛇の列を作り、そのために学校や仕事をサボタージュする人がいたり、無事に購入した客を襲って奪い取るといった「ドラクエ狩り」が頻発したりして社会問題にまでなる作品です。
普段ゲームをやらない人でも名前くらいは知っているでしょう。


かたや、「nintendo DS」といえば、「脳トレ」ブームを巻き起こし、大人から子どもまで爆発的な人気を博している携帯ゲーム機です。実際買った人や子どもにせがまれてプレゼントした人、知り合いの結婚式ニ次回や会社の忘年会などのイベントでゲットした人も少なくないでしょう。


その超キラータイトルドラクエの最新作が今や飛ぶ鳥も落とす勢いのDSでリリースされるという急報はビジネス界からゲーム好きに至るまで瞬く間に駆け巡っています。


わたしもゲームは嫌いではなく、むしろ良タイトルを手に入れれば熱中する方ですが、ドラクエはどちらかと言えば国民行事的なものとして参加する程度で特別な思い入れはありません。まぁいい年こいた大人がゲームで色めき立つのも色々と考え物です。


なので、ここは「ビジネス」として見てどうかという議論をしてみることにしましょう。


実際、今のソニー(SCE)と任天堂を巡るゲーム業界の動向はビジネス的に見てネタの宝庫です。


特にDSリリース以降の任天堂の敏腕な経営手腕の神がかりっぷりとソニーの反面教師にすべきズッコケの神がかりっぷりはゲームという領域を超えて遍くビジネス人に大いなる手本・教訓となる動向を見せています。


そう、任天堂の怒涛の攻勢がとにかくすごいんです。


例えば、このドラクエ9にしても疾風のごとく対応で物議を醸しています。


急遽行われた新作発表会後、「ドラクエ9、DSでリリース」の報が即日TVCMで放映されているからです。


CMを提供する番組選びも周到。
火曜日はゴールデンタイムに「踊るさんま御殿」というお茶の間の視聴率を多く取る人気番組がありますが、そこで大々的な放映。
CMの数も半端じゃない。

ゲーム画面こそ出て来ませんが、「ドラクエ9、DSで来る」という衝撃の発表を前面に出した非常にインパクトのあるデザインで展開しています。


注目すべきは、近頃の任天堂の広告戦略はためらいが一つもないところです。


惜しみもなく宣伝広告費を投じてテレビからネットから駅や電車などの公共交通機関から雑誌から多方面で膨大な量のCMを流しています。


日本全国津々浦々、ゲームに興味がある人にもない人にも余さず情報を伝えようとする気概がそこからはビシバシ感じられます。


それもそのはず、現在の任天堂が標榜する経営戦略方針は「ゲーム人口の拡大」だからです。


ゲームは長年来、すっかりアキバら辺に群がっていそうないかにもな人々の間だけで楽しまれるものになり果ててしまいました。


ゲームと親和性のある人格的属性をあまり有さない人やゲームプレイが得意でない人がどんどん離れていきました。


それまでどちらかと言えばゲームが好きであった層も映像の豪華さばかりが前面に出てインタラクティブのない作品や似通ったジャンルの続編ばかりが続き、興味を失くして関心を失ってしまいました。(わたしもどっちかと言えばこっちの方)


顧客層がますます限定され、市場規模が萎み、事実ゲーム業界全体の売り上げは下がる一方という状況に陥りました。


そこに危機を感じたのがかつてのゲーム業界の覇者、任天堂


任天堂は考えます。このままでは市場が死滅する。ゲームに愛想を尽かして離れていった人々を呼び戻すと同時に、今までゲームに振り向きもしなかった人々を広く取り込んでいかなければこの先生き残る術はない、と。


その全ての想いを一言に込めたのが「ゲーム人口の拡大」です。


今の任天堂のビジネスは全てこの「ゲーム人口の拡大」を核として、これ以上にないほどの有機的な結合を果たしています。
個々の商品、サービスはその先を辿れば全てこの一言に集約されることがはっきり見て取れます。


惜しげもない投資と圧倒的な物量、考え抜かれた広告戦略もその一環です。


ゲームに興味を失った人、元から興味のない人、総称して「無関心層」を呼び込まなければならないのであるから、それにはまず多方面から広告宣伝して無関心層に情報が届くようにするしかないのであるから、そこにコストの出し惜しみをする理由はありません。

最近、任天堂の広告をよく見かけるようになったという印象をお持ちの人はその感覚は正しいのです。ひたすら広告を打っているのですから。


それだけではありません。
特筆すべきはこの「ドラクエ9」発表とCM展開を開始したタイミングです。


この「12月12日」という日には意味があります。この日はDSのライバル携帯ゲーム機、ソニーの「PSP」の2周年を迎えるお誕生日なのです。


つまり、2年前のその日、ソニー初の携帯ゲーム機となるPSPを発売したのです。


当然、ソニーも「お誕生日」ということで自社製品を盛り上げようとします(多分。あまり目に見えてなさそうだけど)


その祝うべきお誕生日に「ドラクエ9」という、ゲーム機の趨勢を左右する超モンスタータイトルが「DS」で発売されるという報をぶつけるという超絶妙な所業は、ソニーにしてみれば嫌がらせ以外の何者でもないことは想像に難くありません。


ソニーは祝賀モードに思いっきり水を差された格好です。


しかし、ソニーに対するこのような任天堂の「ぶつけ方」は今回が初めてではありません。これでもう3回目になるのです。


もっともインパクトが大きく、ゲーム業界市場ではもはや伝説にもなっている記念すべき一回目の「ぶつけ」は、件のPSP価格&発売日発表会の日に起こりました。


当時、PSPは、任天堂が「ゲームボーイ」発売以来築き上げ、彼らにとっては最後の牙城となった携帯ゲーム機市場に初めてビッグネームが殴り込みをかけるということで大変話題になっておりました。


据え置き機(テレビにつなげてゲームをするマシン)の市場トップシェアはPS以降ソニーが掌握していたので、これで携帯機もソニーの天下かと耳目を集めました。


その注目商品PSPの価格と発売日の発表とあって、周囲の注目は最高潮、すわ天下獲りのための号令がまさにそこで行われようとしたとき、それは起こりました。


発表会開始のまさにその直前、数時間くらい前に、突然、任天堂が以前より暖めていた「nintendo DS」の発売日と価格を発表したのです。


プレス陣は騒然としました。その急で絶妙なタイミングでの発表とそれまでひた隠しにされてきたDSの価格が「¥15,000」という従来通りの任天堂スタイルによるお手頃価格設定をしてきたからです。


まるで潜水艦艇が突然海底から姿を現すようにしてDSの発売日と価格が顔を出しました。


ソニー陣営は狼狽したようです。


なぜなら、予定されていた発表会の開始時刻を「会社幹部が交通事情のため遅刻している」という理由で遅らせたからです。
発表会は17分の遅れで開始されましたが、結局発売日と価格の発表は見合わせとなり、発表されませんでした。


この17分の間に、ソニー陣営が発表をすべきか保留とすべきかを談義したことは想像に難くありません。


結局ソニーは出鼻を挫かれたばかりか、当初一説には¥29、800と予想されていた価格を、任天堂DSの¥15,000に対抗するために¥19,800に引き下げざるを得ませんでした。超赤字覚悟の価格設定です。


また、nintendoDSに遅れを取るわけにはいかないと焦ったソニーは、年内でのPSPのリリースを余儀なくされました。


その後、急いで間に合わすようにしてリリースに漕ぎ着けたPSPですが、それが災いしてかハード・ソフト両方にたくさんの初期不良を出してしまい、ユーザーの信頼を大きく落とす結果を招いたのです。

この一連の発表劇は「空白の17分」と呼ばれ、それまで「過去の覇者」に甘んじていた任天堂が怒涛の攻勢を見せ始める火蓋になったと囁かれています。


「空白の17分」で大きく挫かれた出鼻は今現在まで影響を引きずり、PSPという新ハード機のその後の運命をほとんど運命付けてしまいました。
そのとき発表されたDSとPSPの勢力図が現在どうなっているかはここで言及するまでもありません。見ての通りです。


以上が、最大にして最初の一発目。
二発目があったのはつい最近です。


これはあまり大きくはないですが、象徴的なこととして語られています。


今年の年末、現在の据え置き機ゲーム市場の3大ハードを擁するプレイヤー、現トップのSCE(ソニー)、2番手のマイクロソフト、3番手の任天堂のそれぞれの次世代機、つまりは新ハードが揃い踏みしました。


マイクロソフトは2社に1年以上先駆けて「X-BOX360」という新世代機を投入しています。
日本では嗜好の違いからかあまり売れていないようですが、米国では好評を博し、かなりの台数が普及していると言われています。


対して、ソニー任天堂の2社はほとんど同時期、ソニーが僅差で早く11月11日に新世代機「PS3」を、やや遅れて任天堂が12月2日(米国では11月19日)に「Wii」を発売しました。


事はPS3発売一ヶ月前の10月11日に起こりました。


そろそろPS3のCMが始まる頃合であろうとPS3を楽しみに待つファンもいるであろうちょうどそのとき、テレビから流れたCMはソニーのPS3ではなく、任天堂のWiiのCMでした。

「これは何でしょう?新しいリモコン。Wiiリモコン」というCMがあれです。
まだ記憶に新しいと思います。


このCMの手法は「ディザー広告」といって、視聴者に「これは何だろう」という疑問=興味をひきつけて小出し小出しに全容を明らかにしていくという広告手法の一つです。


殺風景な背景にちょこんと棒状のリモコンが立てられているだけの画面にWiiについてまったく知見のなかった人は「何なの?このCM?」と思った人も多いでしょうが、それが狙いのCMです。


Wiiリモコンは前情報から注目していたマスコミやゲーム好きにとってはすでに大きな期待を集めていました。任天堂ファミコンで世に出し、これまでスタンダードとなっていた「両手で持つコントローラー」を任天堂自らがぶち壊し、リモコンという画期的なインターフェースに一新してきたからです。


そうした事情を知っていた人々はこのCMに喉を唸らせました。
知っている人にはあまりに既知ですが、どちらかと言えば世の中にはまだ知らなかった人の方が多くいます。
そうした人たちに「Wiiリモコン」への興味を惹きつけるにはこれ以上にない手法だったからです。


そして、前述した通り、CMの開始日はPS3発売開始のちょうど一月前というこれまた絶妙なタイミング。


絶妙な手法とタイミング、任天堂の動向を見守る人々が興奮と熱狂を以ってこのCMを迎えたのは言うまでもありません。


対して、PS3のCMは一向に姿を現しません。PS3は最先端の機能を多く搭載した超豪華なハードという触れ込みでずっと開発が続いていました。


しかし、その最新鋭機能が災いして、PSPに続き、またも急場しのぎな開発・製造となり、発売1月前となったその時点でも十分な台数を用意できていなかったのです。
日米欧同時発売というトップ自らがした公約を易々と破り、 欧州の発売開始がずっと後に回されるという結果にもなりました。


果たして、PS3は初回出荷8万台弱(日本市場)という状況で、CMを打って売りまくりたいにも「現物」がないからか、CMの準備までグタグタで手が回らなかったのか、わずか発売1週間前前後になってようやくCMが封切られるという始末。


Wiiにとってはまだ発売まで2ヶ月弱ある余裕を持ったCM展開。


PS3は不安材料が多く取り沙汰されていましたが、ここでも大きくマイナスの印象をユーザーや業界関係者に植えつける結果となりました。


期間的にも、「他社にぶつける」といういったところからも余裕のある周到なWiiと、技術上の問題で製造が後手後手になり台数も用意できないばかりかトップの公約破りをしたソニー、そのような両社を象徴する対比がされました。


以上、3度に亘りソニーにぶつける死者にムチ打つような任天堂ですが、任天堂ソニーをどう見ているのでしょうか。
Wii発売直後の任天堂トップの言葉を聞いてみましょう。


「われわれはソニーと競争する気はない。前から言うように私達が闘っているのはユーザーの無関心だ。しかし、結果的にソニーより売れたね、と言われれば当然嬉しい」


言うまでもなく、「ユーザーの無関心との闘い」とは「ゲーム人口の拡大」のことです。


しかし、任天堂は3度もこんなあごきなことをしてまで本当に「ソニーと競争する気はない」のでしょうか。


「競争する気」はないのでしょう。ソニーを「市場から抹殺する気」はあるようですが。


ここから先は私の妄想です。


そもそも任天堂が「ゲーム人口の拡大」を掲げるに至った背景は顧客の「ゲーム離れ」です。
その背景を創り出した張本人は現在の市場を制すトッププレイヤーソニーに他なりません。


また、ソニーはここしばらくゲーム業界でも迷走を続け、大規模な初期不良やトップの不適切な発言を繰り返してもいます。


このままソニーに市場を委ねて手をこまねいていたら、市場は顧客の信頼を大きく失い、ゲーム業界ごと消されかねない、任天堂はそう思っているので
はないでしょうか。


「市場を荒らすだけ荒らしてあっけなく撤退していく」という「市場荒らし」の異名を一部で持つソニーなら尚更かもしれません。


任天堂は言います。「PS3より多く売ったところで”ゲーム人口の拡大”は果たされません。今までPSをやっていた人が任天堂に移ってくるというだけで今までゲームに見向きもしなかった顧客は依然ゲームに無関心なまま。それではゲーム人口を拡大したことにはならない。」


そう、任天堂ソニーに勝っても益はないと見ています。直接の勝ち負けでは意味がないのです。
ゲーム人口の拡大を妨げる癌となる存在をそのまま消し去らなければ、彼らの大命題は達成されません。


「様々な表現があっていい。様々な方向性のハードがあっていい」という趣旨のことも任天堂は言っていますが、ここまであからさまな攻勢を仕掛けるのは「ゲーム人口の拡大」=「ソニーの消滅」と考えているに他ならないとわたしは思います。


任天堂はゲーム市場という分野で、本気でソニーを殺す気になって今舵を切っているのではないかと感じます。


さて、長くなりましたが、ソニーの不振は以前から叫ばれています。様々な分野で自爆行為を含めて何かと暗い話題しか彼らにはありません。
全てが裏目裏目に出ています。


そのソニーを取り囲み容赦なくタコ殴りにしているのは紛れもなく「ipod」の「アップル」と「任天堂」の2者です。


そして任天堂の中心におり、その世界的ゲームメーカーを神威的な手腕で率いているのは現社長、「岩田聡」という人物です。


アップルのジョブスはみんな何かと誉めそやしますが、なぜか任天堂の岩田を誉めそやす人はまだそんなにおりません。
そこで任天堂の岩田氏という人物と彼らのビジネス動向にちょっとばかしクローズアップしていきたいと思います。


続く・・・